「100回泣くこと」作者の最新青春小説
社会科教師のおでこのテカリ占いをしては大受けしていた陽気でマシンガンな中学時代からクールで一目置かれる弓道部員の高校時代を経て、大学生になった私がしたことは、恋をすることだった。遠くの的を見抜く力のおかげで視力が2.0以上になっていた私はその年の秋、キャンバスで遙か遠くから歩いてくる同じ学年の男の子に「今度は的じゃなくて、別のものを射抜くことにしたんです。例えば男子とか」と笑いかけていた。
付き合いはじめて3か月。幸せすぎるくらい楽しかった。でも、ある程度規則正しい生活を美しいものと感じてきた私は、ふと怖くなり、彼にこう告げた。こんな風に付き合うのは、私には無理かもしれない−−。彼はゆっくり時間を置いてから、こんな提案をした。毎日死ぬほど会う生活をやめ、デートは週末に1回、電話は週3回にする。それで、無理だったら、もう一度考え直せばいい――。
全力疾走を終えたあと、ゆっくり並んで歩きながらトラックを周回するような日々。そんなある種健全で、美しいモラトリアムな時間が、ゆっくりと確かな時を刻み、輝きはじめる。