群馬県高崎の会社社長八雲(やくも)が誘拐された。犯人は身代金要求と共にビデオを送付,そこには監禁姿の八雲と螢の群れが映っていた。映像から推理した警察は螢舞う榛名の山荘を急襲したが,人の気配はなく,直後,八雲の死体が京都山中の螢の名所で発見されるや,捜査は大混乱に。やがて容疑者は八雲の妻とその不倫相手に絞られたが,2人には鉄壁のアリバイがあった…。捜査陣を翻弄する二転三転の罠。鍵を握る螢の光の謎。はたして事件の真相は? 本格推理の旗手が満を持して放つ瞠目傑作!
海を越えて旅をするという美蝶《アサギマダラ》をそのまま筆名(ペンネーム)にした氏は,自他ともに認める無類の昆虫愛好家(マニア)である。「昆虫に材を採ったミステリーなら,いささか自信はあります」と語るように,ノン・ノベル初登場の本書は,氏が大切に暖めてきた材料を見事に活かしきった画期的本格推理である。読者はその流麗軽快な筆さばきに翻弄され,小説の醍醐味を堪能すること間違いない。