女一人、イギリス湖水地方をゆく
物語の世界と現実を行き来する楽しみ。
生き方が変わる、自分発見の旅
とぼけた顔の小さなウサギに強烈に誘われて、イギリスの湖水地方へひとり旅。ピーターラビットの村を何度も訪れているうちに、村の生活の一端にふれるまでになった。四季折々の風景を交えて語る岩野ワールドの秀作。
小さなウサギは天からの賜物
私は出無精である。よって、基本的に旅には興味がない。
まして、名所旧跡の観光など考えただけで疲れてしまう。要するに、なじんだ環境や日常生活の中で白昼夢におちいっているほうが、性に合っている類いのぐうたら人間なのである。
こういう私が、重い腰をあげてイギリスくんだりまでやってきたものだから、帰るのがめんどうになり、ついに十二年めの新年をロンドンで迎えてしまった。
それもこれも、もとはといえばピーターラビットのせいである。私は心から思う。ピーターラビットの世界に心底夢中になり、時間や出無精を忘れ没頭することができたことは、天からの賜物なのだと。(本文「まえがき」より)