中仙道(なかせんどう)を奇妙な男が闊歩(かっぽ)していた。名は政太郎(まさたろう)。風采(ふうさい)は道中合羽(がっぱ)に三度笠と旅鴉(たびがらす)風だが,白皙(はくせき)の美男子で白柄朱鞘(しらつかしゅざや)の大刀を腰にしている。武州上尾(あげお)の宿に到ったとき,政太郎は突如,刺客に襲われる。直心影(じきしんかげ)流を使(つか)う敵は何者か?かろうじて逃れた彼は,やがて意外な事実を知る。自分は武州岡部(おかべ)2万石阿部(あべ)家のご落胤(らくいん)で,藩のお家騒動に巻き込まれたらしいのだが……。