徳川幕府では軍艦奉行として活躍,一転,明治新政府下では閣僚を歴任し爵位まで得た奇跡の男──榎本武揚(えのもとたけあき)。〈忠臣は二君に仕えず〉の武士道精神が生きていた時代,「裏切者」の罵声を浴びながらも,不倶戴天(ふぐたいてん)の両政府間を生き抜いた彼にとって,組織とは,国家とは何だったのか。そして,なぜ,彼はかくも重用(ちょうよう)されたのか──。維新後,政府に弓を引いた箱館(はこだて)戦争に敗れた榎本は,当然,刑死を覚悟した。しかしその時,強力な助命嘆願者が現われ,復活の道が拓けた。だが榎本はなおも揺れた。〈徳川〉に殉ずるか,〈明治〉に仕えるか…。斯界の第一人者が,榎本の稀有な人生を通して,激変の時代の組織と人材を問う歴史評伝小説の傑作!