闇と雅の綾なす平安の御世(みよ)。都の栄華の陰で,巷には火付け,盗賊が横行し,人の生死は怨霊─もののけの仕業とされる世でもあった……。今をときめく右大臣藤原師輔(ふじわらのもろすけ)の娘安子(やすこ)が,帝(みかど)の子を宿した矢先,内裏(だいり)に仕える女官左京太夫(さきょうのだいぶ)が変死した。外傷は見られないが,かすかに情交痕(こん)がある。真相追及を命じられた検非違使(けびいし)・坂上元継(さかのうえのもとつぐ)は検屍の際,死骸を紙切れで擦り,香りを移し取った。元継の愛人顕子(あきこ)は,香を嗅ぎ分ける達人なのだ。だが男出入りの激しい左京太夫の身体に残る香りは,意外な男のものだった!(第1話 御簾(みす)の奥の怪)絢爛の奥に秘められた男女の真実(すがた)を,妖しき匂いが解き明かす!江戸川乱歩賞受賞の異才が贈る,空前の王朝医学ミステリー登場!