〈あれほど慎ましかった直子(なおこ)が別人のように奔放になっている。…複雑な花は切ないほど美しい…〉久岡謙一(ひさおかけんいち)(53歳)は,出張の帰途たまたま出会った美しい有夫の女性と,互いの正体を匿(かく)して逢瀬を重ねた。貴船(きふね),嵯峨野(さがの),嵐山(あらしやま)──古都・京都の名所をめぐりながら2人は密会し,そのたびにベッドでの彼女──直子は大胆になっていく。しかし,夢のような情事にも,やがて辛い現実の影が……。久岡の会社はリストラの嵐に揺れ,専務ににらまれた彼は,社内で追いつめられてゆく。一方,直子も結婚生活の悩みを洩らし始めた。満たされない思いに,いっそう激しく恋にのめりこんでいく2人の行手には……。名手が成熟男女の“破倫の恋”の顛末を描き尽くした現代情痴小説の白眉!