北宋(ほくそう)──遼(りょう),西夏(せいか)の外圧に苦しみながら都市文化が繚乱(りょうらん)とした時代,検屍の技術・制度は当時の世界最高水準に達していたという。8代皇帝徽宗(きそう)の御代(みよ),政和(せいわ)7年(1117)4月半ばの朝。首都開封(かいほう)一の盛り場,桑家界隈(そうけかいわい)の芝居小屋海棠棚(かいどうほう)で,人気女役者楊安奴(ようあんぬ)の死体が発見された。外傷はなく病死とも考えにくいが,赤子を孕(はら)んでいたことから,愛憎の末の殺しとも見られる。捜査検屍を担当する方淵之(ほうえんし)が死因解明に苦慮するうち,部下の丘千五(きゅうせんご)が紅い油傘(あぶらがさ)を死体に翳(かざ)すと,なんと鳩尾(みぞおち)に傷痕が浮かんできた…。(第一話 紅油傘(あかいあぶらがさ))首都開封と水都蘇州(そしゅう)を舞台に,愛と殺意の果てを描く7幅(ふく)の絵巻(ストーリー)!江戸川乱歩賞受賞の異才が放つ,前人未到の中国医学ミステリー!