あの時死んだのは、あなたのほうだったんだ……。
名手・小池真理子が「掌編小説」で描き出す"恋"と"幻想"
川端康成の作品集に『掌の小説』と題された一冊がある。掌(てのひら)にのってしまうほど、ささやかな短い小説、という意味合いの、いわば超短編小説ばかりを百編以上集めたものであり、私の愛読書でもある。それにしても、「掌」という言葉は、いかにも美しい。掌には何をのせるのだろう。(略)のせるものは、目立たない小さなものばかりだが、いとおしいもの、密かに心惹かれるものばかりであるような気がするのは私だけか。そんなことを考えながら、ここ最近、書きためておいた短い小説ばかりを集めてみた。短い小説、といっても、短編小説ではない。それこそ掌にのるほど小さな、目立たない作品ばかりである。(「短いあとがきにかえて」より)