文芸評論家 藤田昌司氏感涙!
「苦難にめげない男の美学。我々に大きな勇気をくれる本だ」
賭場の借金を返すまで、なにがあろうと大川を越えて深川に足を踏み入れられない若い大工を描く長編時代小説
苦難にめげない男の美学に勇気が湧く! 文芸評論家 藤田昌司
ちょっとした失意がもとで賭場にはまった若い流しの大工が、わずか半年で二十両もの借りを作ってしまう。きれいにするまで、住みなれた深川から追放、大川から一歩でも入ってきたら殺すと宣告され、立ち直りを決意、町道場で心身を鍛え、呉服商の大店(おおだな)の手代になる。顧客の評判もよく大量の注文が相次ぐが、順風満帆とはいかない。男社会のねたみ、そねみ、そして奸計(かんけい)。気がつけば重大な危機に……。
起伏に富んだストーリーだが、安普請ではない。何よりも人間に対する深い洞察力がいい。作者が追求しているのは、苦難にめげない男の美学だ。「甘えの構造」が寒風に吹きさらされている今こそ勇気を与えてくれる。
「二十両をけえし終わるまでは、大川を渡るんじゃねえ。どこでなにしようと勝手だが、それ以外で一歩でも渡ったら、その場で始末する」腕利きの大工である銀次の足は、永代橋を前にして動かなくなった。最愛の女性を失ったのがもとで賭場にはまり、挙句、仲間の家庭まで潰した銀次。その責めに押され更生を決意したものの、深川を追放されたとなれば仕事は激減する。博徒猪之介の縛りがどれほどきついことか、思い知ったのだ。懊悩(おうのう)し変転する運命を甘受(かんじゅ)した銀次。やがて、一条の光明を見出した時、思いもよらぬ奸計(かんけい)が銀次に牙を剥(む)いた──ひとたび渡れば引き返せない、意地を貫く男の矜持(きょうじ)を注目の新鋭が描く感涙の長編時代小説。