ダンセイニ、ラヴクラフト、ボルヘス……豊饒の系譜に加わった、幻想文学の新たな収穫!
篠田真由美が、作家的憧憬と野心のすべてを傾注した傑作
文芸評論家 東雅夫氏
「馬鹿な…これが《神の墓》だと?」神学生アウレリウクは茫然と眼前の柩を見つめた。唯一無二の至高神を祀り、千年の間平和を保ち続けてきた《都》。その聖地である大聖堂に、万象の創造主であり姿形のあるはずのない《神》が眠っているというのだ。奇しくもアウレリウスは、かつて検邪聖省なる謎の組織によって行なわれた異端撲滅運動の歴史を調べ始めた矢先のことだった。検邪聖省が陰の支配者として信仰の統制を行なってきたのは、人々に疑いを持たせないためか?今まで信じてきたこの世界は偽りなのか…。疑いを抱いた瞬間、ここへ彼を導いた謎の娼婦は不敵に微笑んだ。「《都》の真実が知りたいと願っていたんだろう?」
壮大なる構想のもと、驚異の構想力で宗教と人間の相克を描破した著者渾身の傑作!
幻想文学の系譜に加わった新たな収穫!
文芸評論家 東 雅夫
かつて澁澤龍彦は、幻想文学の要諦を「幾何学的精神」にありと喝破した。建築およびその集積から成る都市とは、とりもなおさず、この地上に具現される幾何学の精華にほかなるまい。果たせるかな、遠くルネッサンスのユートピストたちに端を発して、ダンセイニ卿やラヴクラフト、カルヴィーノ、ボルヘスにいたるまで、都市と建築と至高の存在をめぐる豪奢な夢想は、泰西幻想文学の根幹をなす一大テーマとなってきた。その豊饒なる系譜に、いま新たなる収穫が加わる。ファンタジスト篠田真由美が、作家的憧憬と野心のすべてを傾注して紙上に構築した、絢爛たる幻想都市のアラベスク――『幻想建築術』である。そのタイトルに秘められた真の意味に想到するとき、読者はこの《都》から、もはや逃れられなくなるに違いない。