<競馬小説の金字塔>
時は幕末、横浜・弁天社裏の競(くら)べ馬。富樫裕三郎は先頭に立った。もはや何も考えない。ただ身をかがめ、ほとんど水平になり、馬とともに、透明な風となった。背後に別の馬の息づかいを感じた。マイケルの馬だ!
アメリカから連れ帰ったアラブ馬の世話をする富樫裕三郎(とがしゆうさぶろう)には悲願があった。郷里・三春(みはる)に残してきたいたりんとの恋、そして本邦初の競馬場の建設であった。しかし、幕末という時代は、そんな彼をも動乱のなかに巻き込んでいく・・・。横浜からパリのロンシャン競馬場、そしてドイツのバーデン・バーデンまで、現地取材と綿密な歴史考証を駆使して書き上げた巨編・幕末秘話
「すべての文化は“遊び”を母としている」と言ったのはJ・ホイジンガ(『ホモ・ルーデンス』)だが、この言葉は、こと“競馬”にも当てはまるように思う。わが国にも“競馬(馬事)文化”とよべるものがたしかにあって、それが日本の近代史のなかで果たしてきた役割は大きい。私自身が“狂”のつくほどの競馬好きで、暇さえあれば競馬場に足をはこび、毎週末の馬券買いを欠かさない、ということも、本書執筆の動機である。どうぞ、明日こそは夢の“万馬券”を! (著者付記より)