清冽(せいれつ)にして鬼気迫る剣豪小説誕生!
「斬らねばならぬ、斬らねば――」
政争の渦に巻き込まれた
若き武芸者の許されぬ恋
守るべきは、女への情か、武士の矜持(きょうじ)か
蝉時雨(せみしぐれ)がやかましかったが、ふたりの耳には入らなかった。
大気がふたりの間で、とまっていた。
ふたりは、磁力で引き合うように間をつめて行く。
一足一刀の間境(まざかい)を越えた刹那(せつな)、奥泉の切っ先に斬撃の気が疾(はし)った。
次の瞬間、切っ先が槍のようにのびてきた。(本文より)
奥州倉西藩十七万石。城下の古刹(こさつ)で、一刀流の若武者・待田恭四郎は牢人にからまれていた娘を救う。徒目付(かちめつけ)頭・奥泉孫太夫の一人娘・芳江であった。しかし、孫太夫は恭四郎にとって相容れぬ剣・東軍流の道場主。しかも、代々城家老を出してきた持田一族の政敵・小田島頼母(おだじまたのも)の一派である。敵対する家柄にある二人は惹かれ合い、密かな逢瀬を重ねる。折しも、待田派は小田島の専横による水路普請に対抗して藩主に血判状で直訴した。だがその直後から、待田派の重臣が何者かに斬殺される事件が続発。恭四郎は刺客を倒すべく行動を開始するが、やがて悲報が……。
凄絶な武士の生き方を描いた時代快心作!