凍(い)てつく朝の校庭に全裸で横たわる少女の死体。
怪文書、脅迫、権力闘争……学園は大きく揺れ動いた。
「いい加減にその仮面を脱いだらどうなんだ」
現代社会と人間の心とに潜む
「刃(やいば)」を描くサスペンス巨編。
「雑木林で烏が鳴いた。禍々(まがまが)しい声が、落ち着きを取り戻しかけていた私の心臓を鷲掴(わしづか)みにした。日の出に騒いだ後は静かになっていた小鳥たちもまた、いつの間にかあちこちで清々(すがすが)しい声を響かせていた。身も切るような冬の朝。一日のうちでいちばん空気の澄み渡る時刻。私が最も愛する時間の中で、少女は冷たい死体になって横たわっている。……私は彼女に歩み寄ると、自分の着ていたトレーニングウェアを脱いで裸の躰(からだ)にかけてやった。現場保存の法則からすれば、とんでもないことをしたとの誹(そし)りを受けるだろうが、知ったことではなかった」
(本文より)
凍(い)てつく朝、横浜(よこはま)郊外の高校校庭で女子生徒が全裸死体となって発見された。元警官の桜木(さくらぎ)が真相を追うや、静かな学舎(まなびや)では、教師の学内不倫や生徒の売春を密告する怪文書、用地売却を巡る理事会の軋轢(あつれき)など、黒く濁った泡が浮上する……。
死んだ佳奈(かな)は十年前、家庭内暴力からの避難施設(シェルター)で大量殺人に遭遇していた。惨劇が遺(のこ)した精神の傷と事件の関わりとは。義父への殺人容疑、脅迫、拉致(らち)暴力殺人と続発するトラブルは、誰が何を狙っているのか。そして遊園地廃墟で待ち受ける破局――。現代社会と人間の心とに潜む「刃(やいば)」を描き続ける著者、渾身のサスペンス。