アンネがアムステルダムの隠れ家に身を潜め、日記を書いていた頃―――
50年間封印された<絶望と恐怖> <驚愕と希望>の9年間の記録
ナチスの迫害に絶望したヨーロッパのユダヤ人2万人が魔窟・上海に逃げ込んだ……
少女がそこで見たものとは…!?
「世界中の国が」おじは続けた。「ユダヤ人を入国させないようにしている。受け入れている国、つまり質問なし、ビザなしで入れる場所は、ただ一つ。中国の上海に行くんだよ」
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やった! 無事に逃げた! 父と母とわたしは、霧の垂れこめる寒い三月の夜、ドイツから脱出した。泥棒のようにこっそりと町を出た。ユダヤ人であるということが犯罪で、その犯行現場をあとにするかのように。
――本書より
三冊の日記帳
<ウルスラ一家は、1939年5月、悪臭漂う上海のユダヤ人避難所に辿り着いた>
荷ほどきのときに、わたしのたった一つのスーツケースから最初に出てきたもの、それは三冊の日記帳だった。(中略)
こんなにもたくさん、これから何かを書きつけられる真っ白の紙がある。これは、すぐには帰れない、何日も、何週間も、何カ月も、もしかしたら何年も書き続けられる、という暗示なのかもしれない。(中略)
わたしたちは、望んでふるさとから去るのではない、愛する人と別れるのでもない。慣れ親しんだもの、大切にしてきたものすべてを置いて、逃げるのだ。何もかも、心までもあとに残して。
――本文より