忘れない。忘れてはいけない。この国が焼かれた戦争。
「解説」より
警報が鳴っても手塚はマンガを描くのをやめなかった。どうせ死ぬのならマンガを描きながら死にたい。そう思ったのだ。B29爆撃機が来襲すればもはや逃げ場はない。
ザーッと夕立が降るような音がして、手塚の周囲に轟音が響いた。焼夷弾だ。大地が大きく揺れ、炎が上がった。油のいやな臭いが充満した。「もう死ぬのだ」と手塚は目をつぶった。
やがて誰かが叫ぶ声が聞こえた。手塚はまだ生きていた。工場は炎をあげ、人々が走り回っていた。しかし、そこここに動かない人がいる。生きているのか? 死んでいるのか?
■新書で味わう手塚漫画の醍醐味!
「鉄腕アトム」「ブラック・ジャック」「どろろ」「火の鳥」「アドルフに告ぐ」など、後世に遺る数々の名作を描いた「漫画の神様」手塚治虫。その天賦の才は、これら長編ばかりでなく、読み切り短編においても遺憾なく発揮されました。本書は、新書界初の漫画アンソロジー集の第1弾として、手塚治虫が生涯に遺した計15万ページに及ぶ作品群から、『戦争』をテーマにした傑作、問題作を選りすぐりました。
手塚漫画は大人必読の現代の教養であり、もちろんそれ以前に文句なく面白い! 子供の頃のように時の経つのを忘れ、最後の1ページまでご堪能ください。