こんな戦争は、もう二度とごめんだ。
巨匠の歩みはここから始まった。
「解説」より
手塚治虫の戦争体験は、アメリカの爆撃で死ぬ思いをした恐怖感だけではない。多くの死者を目撃した衝撃、水虫に侵された両腕が切断寸前の絶望、食べるものがない空腹、教官、軍人の体罰の苦痛、授業がない不満、学友との別離の悲哀、出征した父の安否の不安、兵隊になって戦場に行く恐れ…が入り乱れて肉体に精神にのしかかってきた複合的で根深く異常で傷だらけの体験なのである。(略)手塚治虫は死んでいったものたちが語ることができない以上、それにかわって死んだ事実を語り、生きたかった思いを伝えつづけた。生きてきたものたちが話すことができる以上、その身になってさらに強く生きる意味と戦争反対を伝えつづけた。
■手塚漫画で知る、平和のありがたさ
手塚漫画の面白さは、時代を経てもけっして色褪(あ)せることがありません。あらためて読むと、まず絵の素晴らしさ、ストーリーの絶妙さに驚き、「やはりテヅカって凄い!」と心の底から実感できるはずです。
手塚治虫は自らが体験した「戦争」を生涯のテーマとし、繰り返し作品に取り上げてきました。本書『手塚治虫「戦争漫画」傑作選』では、疲れた中年男が同窓会に出席するため、懐かしの校舎を訪ねるシーンから始まる、短編の白眉(はくび)『カノン』をはじめ、おなじみの「ブラック・ジャック」からベトナム戦争を題材にした問題作など、計10編を収録。息子にも読ませたい、日本の漫画遺産がここに!