妖しうて、あぁ怖ろしや…
日本人の「ゾクッ!」
江戸怪談を味わい尽くす1冊
全33編収録。『番町皿屋敷』も『耳なし芳一』も『牡丹灯籠』も、オリジナルで読んでみよう!
「今すぐわたしの首を刎(は)ねて下さい。そうして二人の愛の記念(かたみ)に、いつまでもお傍(そば)に置いて下さいませ」
『生首と旅する男』(新御伽婢子〈しんおとぎぼうこ〉)より
■人間の業(ごう)を描く「江戸怪談」
かつて、夏の夜には怪談が付き物だった。怨霊の襲撃を堪え忍ぶ「耳なし芳一」の挿し絵や、おどろおどろしい声色(こわいろ)で一枚、二枚と数えあげる「番町皿屋敷」の一節を知らない人はないだろう。古きよき日本の幽霊ばなしの定番である。
話の原型はすでに江戸時代からあった。『諸国百物語』『伽婢子(おとぎぼうこ)』『因果物語』といったタイトルの怪異小説集が多く世に出た。これらに収録された作品をまとめて「江戸怪談」という。
「江戸怪談」を読めば、日本人が何を怖れてきたのかがよくわかる。ただ異形(いぎょう)の怪物で驚かせるのではない。人間の心の奥底に潜(ひそ)む情念やその業の深さに、戦慄させられるのである。