「肉汁がじゅわっと広がってきますね」
「思ったよりもクセがなくて、食べやすいですね」
「秘伝のタレを使っているから、おいしいですね」
……
こんな表現を
あなたは
使っていませんか?
その言葉は、本当に「おいしい」を表現できていますか?
「こんがりきつね色」
……実際にかじってみたら、中は冷たいということだってあるわけです。
「こくがあって、あっさりしている」
……「こくがある」と「あっさりしている」は対極にある言葉で、表わしている内容はまったく矛盾しています。
「オーガニックの野菜だから、おいしい」
……素人が有機農法で育てた野菜は概して「不健康野菜」であることが多いのです。
「昔ながらの製法で」
……店に進化がなく、客のテイストが進化していけば、店は相対的に退化していくことになります。
「食べやすい」
……刺激がなく、スムーズに喉を通り、なおかつ噛まなくてもいいもの。たとえば、全がゆのようなものに限りなく近づいた食べ物と言えます。
■あなたの表現力は、なぜ陳腐なのか?
テレビのグルメレポーターが、ステーキやハンバーグの一片を頬張(ほおば)り、「肉汁(にくじゅう)が口のなかに、じゅわっと広がってきますね」と大げさにコメントするのを聞いたことがあるだろう。
ところが、この表現は、実は何も言い表わしてはいない。その肉汁がいったい、どんな味か、どんな香りかが、まるで語られていない。
私たちが日頃なんとなく「おいしい」を伝えたつもりで使っている表現は、およそ不完全なものばかりだという。それは、深く意味を考えずに常套(じょうとう)句を使っていたり、先入観にとらわれて、本当はどうなのかを正しく言い表わせていなかったりするためだ。
そこで、正しい感覚を取り戻し、言葉の数を増やし、表現力を豊かにするためのプロセスについて解説したのが本書である。