かつて教養の中心に「書道」があった……
「きみ、いい字を書くね」
という褒(ほ)め言葉は、日本から消えてしまったのか。
本書の内容
●肉筆で書くことは、ウソや偽りのない証
●なぜ「書道」というのか
●王羲之(おうぎし)のここがすごい
●「もっと自分らしく書きましょう」は、間違い
●形臨(けいりん)──そっくりそのまま真似ることから始めよ
●漢字文化圏の実態
●「天真爛漫(てんしんらんまん)」を理想とした書家
●書く姿勢が大切なのは?
●「永」の字を重んじる本当の理由 ……ほか
■書は、たんなるアートではない!
ひと昔前の日本には、やたらと人の書いた字を褒(ほ)める老人がいたものだ。彼にとって、「いい字を書く」ことは、すばらしい人物であることと同じ意味であった。
すぐれた書は、その一字一句から、作者の人柄・品格が感じられる。書家である著者は、それが歴史に対する深い認識によって裏づけられたものと主張する。
だから、「もっと自分らしく書きましょう」と指導する人がいるが、それは間違いである。人の個性は、修養を重ねることなしに自然とできてくるものではない。
外形だけを風変りに表わしたものも、書ではない。アート書道のブームは、「書の否定」なのではないか。書とは、造形芸術ではなく、教養なのだ。