雄大な湿原に消えた謎の美女を追え!
茶屋次郎、北の大地で苦難の推理行……
旅行作家・茶屋次郎(ちゃやじろう)は釧路(くしろ)の事業家から失踪した愛人・令子(れいこ)の行方捜しを依頼された。直後、事業家の顧問だったロシア人が地元の湿原で他殺体となって発見される。二つの事件の関連は? 釧路へ飛んだ茶屋は、令子が自殺サイトにアクセスしていた事実を掴(つか)んだ。彼女は自殺したのか? やがて令子の出生地(しゅっしょうち)詐称が明らかになり、謎は深まった。茶屋は自殺サイトの開設者を訪ねるが……。釧路湿原に消えた美女を追って推理行が始まった。あふれる旅情とサスペンスで人気の“名川(めいせん)シリーズ”第十四弾!
<著者のことば>
北海道で「霧」というと、摩周湖(ましゅうこ)を連想する方が多いが、私の目に浮かぶ「霧」は釧路(くしろ)湿原だ。
何年も前のことだが、斜里(しゃり)岳に登った。山頂に立てば、知床(しれとこ)連山、阿寒(あかん)の山々、大湿原、根室(ねむろ)海峡をへだてて国後(くなしり)島まで見渡せるはずだった。が、山頂近くで襲ってきた山霧は、登山道さえも隠してしまった。次の日、釧路までの釧網(せんもう)本線に乗った。摩周あたりまでは晴れていたのに、標茶(しべちゃ)から先は霧。大湿原も、そのただなかを蛇行(だこう)しているはずの釧路川も目にできなかった。
本作の取材旅行は、天候に恵まれた。湿原と川を一望する高台に立ったとき、かねてからあった、「釧路川を」という読者の希望の理由がのみこめた。