二度と帰らないと決めた“過去”
男はなぜそこへ旅立ったのか――
インテリア会社会長が殺害された。
事件の真相を追って浅見光彦は、三河、吉備、木曾へ!
愛知・岐阜県境の奥矢作湖(おくやはぎこ)に他殺体が浮かんだ。身元はインテリア会社会長・瀬戸一弘(せとかずひろ)と判明。被害者は奥三河(おくみかわ)の歴史の街・足助(あすけ)の「観光カリスマ」として知られる人物の新聞記事を持っていた。事件を知った浅見光彦(あさみみつひこ)は調査を開始、最後の旅に出るという手紙を瀬戸が残していたことを掴む。二度と帰らない覚悟でどこへ向かったのか。木曾の山村で木地師(きじし)の家に生まれ育った瀬戸。彼が故郷を語ることはなかった。それはなぜか? 記事は何を意味するのか? やがて封印された過去が蘇(よみがえ)るとき、もう一つの事件が浮上した……。
<著者のことば>
「足助」と書いて「あすけ」と読みます。このユーモラスな名前の町が舞台です。春のカタクリ、秋の紅葉など、美しい自然に囲まれた、まるで箱庭のような古い宿場町。ここでの「女傑」と呼ばれる風変わりな女書店主との出会いをきっかけに、浅見光彦(あさみみつひこ)は複雑な事件の闇に紛れ込みます。岐阜県と長野県にまたがる山深いヒノキの森に、辿(たど)ってはならない「禁忌(きんき)の道」がありました。半世紀前に行われた「全国植樹祭」を発見したことも、この物語に奥行きと意外性を演出する要素になりました。『沃野の伝説』『悪魔の種子』『鯨の哭(な)く海』と並び、これは日本と日本人の暮らしの原点を語る作品でもあります。