『暴走老人!』の芥川賞作家が戦慄した、幼児たちの実像
この新しい現実が意味するものは何か?
<「幼児の異変」は静かに、しかし確実に進行している>
腕を描き忘れる。四角い川を描く。三角形が描けない。「ひとつ、ふたつ」「それ、これ」が理解できない。目をつぶれない。そして、言葉が出ずにすぐに「きれる」…。この子たちの危機は社会の、人間そのものの危機である。
<「子どもは手をかけるほどいい子に育つ」は、幻想に過ぎない>
幼児画はその子の成長度合いや、心象風景を雄弁に語るといわれている。足がない絵、首から上だけの自画像、丸い水たまりのような川。
いったい子供たちに何が起こっているのか? この子たちが成長し大人になったとき、社会はどんな風になっているのか? 私は不安を覚え調べ始めた。そしてできあがったのがこの本だった。
この本をもっとも好意的に読んでくれたのは、じつは普通の母親たちだった。現代のような過熱した早期教育に奔走する必要はない。育児はなるべく肩の力を抜いて、できる範囲で我が子と接する。それが一番だという当たり前の理屈に納得してくれたからだと思う。
(「文庫への前書き」より)