第12回松本清張賞 受賞作家のデビュー作
幕末動乱の時代に翻弄される男と女
文芸評論家・清原康正氏、絶賛!
「若者の一途さ、潔さ、女性への思い、仲間との連帯意識なども、細やかな筆致で描き出されている」
寺の湯灌場(ゆかんば)手伝いをする辰吉(たつきち)の眼前には、身売りされた幼馴染(おさななじ)みキヌの無惨な死体があった。辰吉は操(みさお)を捧げてくれたその躰を、怒りと共に懇(ねんご)ろに弔(とむら)った。キヌは大阪の町を襲った天保(てんぽう)大飢饉(ききん)―人災の犠牲者なのだ。そんな折、師と仰ぐ浪人速水十兵衛(はやみじゅうべえ)の許(もと)を女郎屋主(あるじ)で岡っ引きの富蔵が訪ねて来た…。(「月冴え」より)実力派の気鋭が時代の渦に翻弄(ほんろう)される弱者の心の叫びを活写!
<動乱期の渦に巻き込まれる若者への温かい視線
文芸評論家・清原康正>
それぞれの主人公たちは、幕藩体制の矛盾がもたらした時代の流れの中で、自らの生きざまを選択せざるを得ない状況に追い込まれていく。そうした社会の不条理に対する怒りが、これらの若者たちの根底に存在する。こうした怒りは現代の若者たちにも存在するものである。若者の一途(いちず)さ、潔(いさぎよ)さ、主人公たちの女性への思い、仲間との連帯意識なども、細やかな筆致で描き出されている。(「解説」より抜粋)