遠く離れた江戸と九州で、父子に危難が降りかかる
息子が辿(たど)る父の足跡
惣三郎(そうざぶろう)は(中略)子が父の創案した秘剣をすでに会得(えとく)したことを悟(さと)った。しのは清之助(せいのすけ)が実母の眠る地に修行の場を求めたことを複雑に噛みしめていた。そして、
(いかようと実母への思慕(しぼ)には敵(かな)わぬのか)
と哀しくも思い知らされていた。みわは清之助が相良(さがら)の番匠川(ばんじょうがわ)を修行の場に選んだことをこう推測していた。
(兄上は父上を乗り越えんと苦闘しておられる)
(本文より)
金杉惣三郎(かなすぎそうざぶろう)の故郷・豊後相良(ぶんごさがら)の番匠川の流れの中に、息子清之助の姿があった。かつて父が若かりし頃、水面(みなも)に映る月を斬り上げ、斬り下げして修練したひそみに倣(なら)い、その偉大な背中を超えようと苦闘していたのだ。そこへ「尾張柳生(おわりやぎゅう)七人衆」を名乗る刺客(しかく)が次々と現われる――。一方、江戸では徳川吉宗(とくがわよしむね)の密命を受けた惣三郎が、行方を絶った御庭番(おにわばん)の探索に乗り出す。