記憶を失った娘。その身柄を、惣三郎らが引き受ける
家族が癒(いや)す心の深手
「みわも結衣(ゆい)も一人前に働いてくれます」
「残るは一人か」
「清之助(せいのすけ)のことですか。おまえ様、
私どもの知らぬところで成長しているものですよ。(中略)
清之助は清之助で旅の空で悩み、だれぞに助けを求め、
そして、その都度(つど)親離れしていくのでしょうな」
しのの顔に寂しさが漂った。
(本文より)
徳川吉宗(とくがわよしむね)がかつて藩主を務めた紀州藩(きしゅうはん)――その下屋敷で、凄惨(せいさん)な殺戮(さつりく)が行なわれた。ただ一人生き残った娘鶴女(つるじょ)は心を閉ざし、何も喋(しゃべ)ろうとしない。一計を案じた金杉惣三郎(かなすぎそうざぶろう)は、鶴女の身柄を預かり、飛鳥山(あすかやま)の菊屋敷(きくやしき)で家族をあげて見守ることに。平穏(へいおん)な時が過ぎるのも束(つか)の間(ま)、熊野(くまの)の修験者(しゅげんじゃ)たちが次々と襲いくる。果たして鶴女は何を見たのか? 驚愕(きょうがく)の真実が明かされる!