あろうことか惣三郎(そうざぶろう)は、
因縁(いんねん)浅からぬ尾張(おわり)の地に……。
嫁(とつ)ぐ娘の晴れ姿、父は知らず
みわは惣三郎への複雑な想いを振り切って仏壇の前から、
最前から顔を伏せたままのしのに向けた。
「母上、みわは昇平(しょうへい)様のもとに嫁に参ります。
これまでいたらぬみわをようもここまでお育て下さいました。
みわにとってこの世にある母はお一人です。
その人のもとでこれまで過ごさせて貰(もら)った幸せを
決して忘れることはございません」
みわの言葉を聞いたしのが思わず泣き声を上げた。
(本文より)
いよいよ江戸に帰るべく、金杉清之助(かなすぎせいのすけ)は徹宵(てっしょう)して南下し、師が眠る鹿島(かしま)を訪れる。しかし清之助が目(ま)の当(あ)たりにしたのは、米津(よねつ)道場の意外な現状だった。片や父惣三郎の姿は、仇敵(きゅうてき)の本拠地尾張(おわり)にあった。敵の敵は味方。清之助を斃(たお)すため、惣三郎はまたもや意外な行動に出る。江戸では二人の帰りを待ちわびる娘みわが、昇平(しょうへい)のもとに嫁いでいく日を迎えたとも知らずに……。