世界的照明デザイナーによる伝統の再発見
もう一度、美しい「あかり」と暮らすために
東京タワー、レインボーブリッジ、白川郷…。国内外のさまざまな照明プロジェクトにかかわる中で見出した、日本人が培ってきた「ほのあかり」の可能性とは?
<白川郷に、月あかり照明をつくる>
その夜は夜半から雪が降りはじめた。東京では見ることもできないような大きな牡丹雪であった。
「あー、この降る雪に光が当たったらどんなにきれいだろうな。そうだ、峠の見晴台の足もとに照明を仕込んで、ライトダウンしましょう。村全体を月あかりのように優しい清らかな光で照らしましょう」
私はスタッフに言った。村を流れている庄川の対岸の山腹に三ヵ所、照明を埋め込んで、時間によって徐々に月が動いていくように順次点灯させよう。
――本文より
<やわらかな「あかり」を、いまに取り戻したい>
各地のさまざまな照明デザインにかかわる中で私が見出したのは、「陰翳」の美しさであった。
これは、光と闇という対比の中で捉える欧米の照明とは違った、光から闇に至る中間領域の中にある、やわらかな「あかり」の存在であった。
都市スケールでいえば、調和のとれた優しい夜景をつくることでもあり、建築や住宅のスケールでいえば、ほのかなあかりを大切にすることなのである。