岩切正一郎=解説
誤解と勘違いの連続だったカミュの人生を、
思い違いの物語として演出する「真実」の評伝――
「真実の中で、真実のために生きるのだ。あるがままの自分を、自分の無力を受け入れればいいのだ」(カミュ)。とても個人的な真実だ。しかしそうでなければいったい芸術に何の意味があるだろう? なぜなら、作家も含め、芸術家はそのひと個人の、宿命の魅惑としてひととき顕現する「真実」に触れているから、あるいは触れたから、そしてそこでは無力だから、芸術家なのである。サルトルにはたぶんそれはなかった。
岩切正一郎
カミュ
『異邦人』で有名なフランスの作家。エッセイスト、劇作家、ジャーナリストとしても活躍。仏領だったアルジェリアに生まれ、ナチス占領下で対独レジスタンスに参加。『ペスト』などで不条理と抵抗を描き、世界の戦後世代に鮮烈にアピール。ノーベル文学賞を受賞。
今や「異邦人」が偽りのない実感となり、時に「カリギュラ」のように叫び、「シーシュポス」のごとき日常を過ごす者にとって、早く生まれすぎ、時代に先駆けて逝った人が放つ光芒とは――。
必要なのは破壊の連鎖たる革命ではなく、連帯を創造する反抗だ! あらゆるイデオロギーの呪縛を解きほどいた作家の、魂の遍歴。