第30回吉川英治文学新人賞受賞第一作
シャレにならない大人の事情――
朝倉かすみが贈る、ほろ苦くもエロティックな恋愛短編集
「わたし」を脱いで裸になりたい
女たちの理想郷(ユートピア)はどこにあるのだろう――?
わたしはただ、と、万佐子は布団のなかで目を閉じた。隣で渡部が控え目ないびきをかいている。
斉野政近にとって、美味しいものになりたかった。よい匂いを立たせたかった。玩具(おもちゃ)にされるといういい方は否定的な意味で用いられるが、手垢(てあか)やよだれでべたべたになった玩具にだって言い分はあると思う。喜びもある。(「グラン・トゥーリズモ」より)