ゆっくりと遠ざかり始める、夏休みの記憶と、君。
淡くせつない、おさななじみとの恋を描く最新短編集。
ミーちゃんは長い黒髪を宙にひらひらさせて、小さくなっていった。/俺はその背中を見えなくなるまで見送って、来た道を戻り始めた。/道は乾いている。人気のない街にサンダルの音がぺたぺたと響く。/影がとても長くて、ミーちゃんとカブトムシを取りに出かけた朝も、こんなふうに影が長かったかもしれないなと思った。/夏休みの記憶は後ろ姿になって、ゆっくりと遠ざかり始める。でも、東京は今日も暑くなりそうだ。(「夏が僕を抱く」より)