『サッカーボーイズ』で注目された青春小説の新鋭が描く、切なくみずみずしいラブストーリー
その人は涙を流していた。
涙を流していたのは、わたしと同じ書店員だった――。
海辺の町の、ひと夏の思い出――。
「それじゃあ、本の書き出しを決めておこう。そうすれば、きみは最初の一行を読めば、ぼくの小説だって気づくはずさ」
「そうかしら?」
「そうだよ。ええと、書き出しは……」
「書き出しは?」
ふたりの間に沈黙が降りてきた。
男は目を瞑り、しばらく思案すると史江にだけ、そのふたりの小説の書き出しを教えてくれた。
(「赤いカンナではじまる」より)