そこには、こころを癒(いや)してくれる秘密がある――
東京・丸の内の片隅に、ぽつんと暖簾(のれん)をかかげる小料理屋。
少しさびしそうな美人女将の手料理をもとめて今宵もこころに疵(きず)を負った客が訪れる――。
居心地のよい“おばんざい屋”の物語
「いいですか、ここにいて」
「え?」
「わたし、ひとりでここに座っていて……いいですか?」
女将は少しだけ驚いたように目を見開いたけれど、すぐやわらかな笑顔になった。
「もちろんですわ。うちはね、女性でお1人でみえるお客様がとても多いんですよ」
(中略)
「いえ……なんとなく、今……ここにいてもいいよ、って言って貰えそうな場所が見つからなくて」(本文より)