「藩を、正してくれ」
病床の父からの願いをよそに、踊りに俳諧に好き勝手のこの男、何を思う?
美しい南国・園瀬藩を舞台に描かれる、真の武士の物語。
『軍鶏侍』で時代小説界最前線に躍り出た著者初の長編。
「遊び奉行」とは、正式名称を裁許奉行といい、家老職が健康で仕事に支障がなければ、月に一度、町奉行や郡代奉行の手に負えない訴訟を採決し、願いに対して許可を与えるのが主な役目である。実際には裏方の大変な仕事ではあるものの、禄が高いにもかかわらず月に一日の勤めでよいところから、「遊び奉行」と羨ましがられ、めったに公務の席に出ないことから「蔭奉行」とも呼ばれていた。
愚兄賢弟と呼ばれながらも、藩政を根本から正す
側室の子でありながら、その奔放かつ清廉な性格で家臣を惹きつける亀松(のちの永之進、一亀)。だが、十二代園瀬藩主の父・九頭目斉雅(くずめなりまさ)は、あえて正妻の子である弟・千代松に跡を継がせることによって、藩を牛耳る筆頭家老・稲川を油断させ、政(まつりごと)を正して欲しい、と願った。
家老に就(つ)くべくお国入りした直後、藩一番の荒れ馬を見事に乗りこなしたことで、不満を抱く若侍たちの期待を集める永之進。ところが、武家には禁止され庶民にのみ開放されている盆踊りで、頬かむりをして踊っていたのが露見、役職も裁許奉行に落とされてしまう。しかし、そこにこそ彼の狙いがあった!