ふいに思い知る、すぐそこにあることに。
時に静かに、時に声高に――
「死」を巡って炙り出される人間の“ほんとう”。
直木賞作家が描く「死」を巡る10の物語。
「同じクラスの、岩崎ひかりさんという女生徒が亡くなったそうです」
志帆子がとっさに反応できずにいると、「聞こえてます?」と相手は言った。連絡網の電話は加藤さんの母親からしかこれまで受けたことはなかったが、このときは父親とおぼしき男性がかけてきていた。
「どうして?」
ようやくそう応じると、「ジシされたそうです」と相手は言った。
「ジシ?」
「はい。自殺されたそうです」
(「雨」より)