何か大きな見落としを
しているように思えて
ならなかったのです――。
祖母が祖父を介護する家に居座る孫、
唐突に同棲を快諾した恋人、
鉢合わせした住人に違和感を抱く空き巣……。
変わりゆく町で繰り広げられる
一筋縄では解けない事件とは?
その大きな時計は今日もまた、
人々が織りなす事件を見つめる――
町のシンボル、大きな時計が目印の時世堂(じせいどう)百貨店の隣に立つ一軒の家。その家で、和江(かずえ)は抗癌剤(こうがんざい)治療に苦しむ40年連れ添った夫を介護している。ある日、夫の勧めで、気分転換に写生教室に出かけることになり、孫娘のさつきに留守番を頼むことに。その日だけのつもりだったのだが、なぜかさつきはそのまま居座ってしまい……。和江の家が建つ前は時世堂の物置き、その前は製鞄(せいほう)工場、さらにその前は中古タイヤの倉庫……。様々に変わりゆく風景の中で、唯一変わらなかった百貨店。その前で繰り広げられてきた、時に哀しく、時に愛しい事件とは?