彼女は、
重力を無視するかのように、
ふわりと僕の前に
降り立った――――
「屋上(ここ)へ何をしに来たの?」
それが白兎(しろうさぎ)のマスクを被(かぶ)った君との、
初めての出逢いだった……。
ひりつく痛みと愛おしさが沁(し)み渡る
青春恋愛ミステリー。
忘れられない時間を過ごしたあの子は今、
誰を想っているのだろう。
「じゃ、今度デートしてくれますか?
坂井さん、彼女いないんですよね?」
職場の男性社員に人気のその娘(こ)は言った。
「まあ」
「なら、お試しの1回や2回、いいじゃないですか」
「よくない」
「どうして?」
凄(すご)むような訊(き)き方に怯(ひる)み、
僕は半歩後退(あとずさ)る。
同時に、口から
「他に好きな人がいるから」という言葉が零(こぼ)れた……。