全米を驚きと感動の渦に巻き込んだ実在の天才ホームレス音楽家の物語
『ロサンゼルス・タイムズ』のコラムニストである私は、ある日街角で、弦2本のバイオリンでベートーヴェンを奏でるホームレスに出会った。
彼の名はナサニエル。病名は統合失調症。
だが彼にはジュリアード音楽院出身という輝かしい前歴があった。
いったい、彼に何があったのか。
私は、彼の天才音楽家としての人生を取り戻すことができるのか……。
――「私は、ナサニエルの病気について、それがどういうものであるのか、どうすればいいのか、まただれに聞けばいいのかも、ほとんどわからなかった」――私、ロペスは、ナサニエルをランプ(ロスのスラム街に位置する、精神障害を抱えるホームレスに対して
社会復帰のサポートを行う施設)に誘ってみた。
「おれには助けなんて必要ない」
「あそこはサンドウィッチがもらえて、シャワーが使える、それだけの場所だよ」
「おれはここ、このトンネルの中が好きなんだ。ここだと一日中でも演奏できるし、だれもおれの邪魔をしないからな」
私の頭の中で、ある“よこしまな計画”がひらめいた。