もしも五重塔や本堂の「軒(のき)の線」が真っ直ぐな直線だったとしたら、はたしてそれらの建物に美しさをお感じになるでしょうか。伝統的な日本の社寺(しゃじ)建築の美しさの根源は、端(はし)に近づくにしたがって緩(ゆる)やかに反(そ)っていく、華麗な「軒反り(のきぞり)」にあります。そして、昔の大工の知恵と技術が一番詰まっているのも「軒反り」なんです。コンクリートや鉄骨であれば、どんな曲線を作るのも自由自在でしょうが、木を組んで美しい曲線、「軒の反り」を出すにはとても高度な技術が必要になります。(まえがきより)――文化財専門の"最後の宮大工"が語る、日本の伝統技術の素晴らしさ。